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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第102回〉
2019年 6月

本年6月の話題として取り上げなくてはならないのが、大阪で開催されたG20サミットだろう。大阪がさまざまな形で世界に発信される中には、もちろん食に関するものも多かったに違いない。食材や食文化や料理など、これを機会に日本における今後の大阪の役割を考えていきたいものである。さて、今月はテーマ食材や前菜などに、大阪産魚介が取り上げられた。また、大阪府の水産関係者からの情報提供なども行われた。



西野保孝さん 西野保孝さん

山海料理 仁志乃

お店HP
ぐるなび
北野博一さん 北野博一さん

日本料理 喜一

お店HP
ぐるなび
城崎栄一さん 城崎栄一さん

旬屋 じょう崎

ぐるなび



◆6月の前菜テーマ「夏・大阪湾の恵み」
西野保孝氏による前菜料理
前菜「夏・大阪湾の恵み」

夏・大阪湾の恵み

・生しらす昆布巻き
・ひ烏賊卯の花射込み
・とび荒海老沖漬け
・和泉蛸蒸し浸し
・大阪湾雑魚即席料理(北野博一氏)


初夏から盛夏にかけての大阪湾の海の幸を盛り込んだ前菜料理。まずは、生シラスを使った一品。昆布に生シラスを広げ、淡口醤油を噴霧して一昼夜。これを溝雪昆布(極薄削りのおぼろ昆布)で巻きあげている。ヒイカはツボ抜きしたものに、ゲソと卵白を混ぜた卯の花を射込み、調味しただしで煮含めている。とび荒エビは、燻製醤油がポイントとなっている。中華鍋の底に桜チップを敷き、上にバットを置き、淡口醤油を入れて燻す。エビのミソ・頭、燻製醤油と合わせ、日本酒で洗った身肉とともに一昼夜漬け込んでいる。和泉タコは茶ぶりにし、60℃で30分蒸す。昆布だしに洗双糖(せんそうとう)、淡口醤油などで調味した地を作り、温かいままのタコを入れて浸している。

北野氏による即興(掛け合い)料理
前菜「夏・大阪湾の恵み」

蝦蛄の貴醸酒粕の一夜漬
酔っぱらい蟹
鱸種柊(ギンタ)

今回の前菜料理では特別に、大阪の漁港周辺でしか消費されない雑魚(シャコ・小ガザミ・ギンタ)を即席で仕上げた料理が披露された。シャコは貴醸(きじょう)酒粕漬けに、小ガザミは酔っ払い蟹に、ギンタは海水煮としている。いずれもシンプルながら、昔の大阪でよく見られた夏の食卓を彷彿させる味わいである。

アコウの刺身

【総評】

大阪湾の魚介は、種類は豊富だが、水揚げされる量は決して多いとはいえない。だからこそ、前菜に使うことで生かすことができるのではないか、という狙いがあったのだろう。試作料理に対して多くの賛辞や質問がなされたが、なかでも生のシラスを見事に昆布巻きにした、その技術への質問が多くあった。また淡口醤油を自家製の燻製醤油に仕上げるコツなどへの質問や意見も寄せられていた。和泉タコの料理については、下処理法への質問や「同時期に出回る耳イカではどうか」という提案などがあった。最後に即席料理を担当した北野氏から、本会で用いた岡田浦漁港の雑魚の紹介がなされ、「大阪にはまだまだこうした魅力ある雑魚が多くある。これらを生かしたいと考えている料理屋は必ずあるので、何とか流通させる方法を考えて欲しい」とのメッセージを添えた。

アコウの刺身


大阪料理会
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大阪産魚介の現状と流通について説明する、大阪府立水産試験場の辻村氏





◆6月のテーマ食材「伊佐木いさき  城崎栄一氏の献立
伊佐木葵真蒸十穀米蒸し餡掛け

【総評】

「色合い、緑が美しい」「イサキの身肉がとても軟らかな質感で驚いた」とする評が多く寄せられた。イサキの下処理としての飽和塩水についての質問が相次いだ。質疑応答の中で「仕込みの時間を短縮する目的から始めたが、結果として振り塩するよりも、良い結果が得られるようになった」とのコメントなどが城崎氏から聞かれた。運営委員からは「木の芽が使われているが、量的に少なかったのが残念」というアドバイスなどがあった。

伊佐木葵真蒸(あおいしんじょう)
十穀米蒸し餡掛け

夏の魚としての知られるイサキだが、料理屋における調理法はかなり限定されているかもしれない。今回は新たな可能性を探る試作料理といえよう。三枚におろしたイサキは飽和塩水に20〜30分漬けておく。アラは天火で焼き、泡口八方だしで煮出してスープをとり、濾して葛を引く。すり身を昆布だし、全卵、塩、酒、浮粉でのばし、青寄せと木の芽を合わせて葵真蒸としている。イサキを骨切りし、間に先ほどの真蒸を挟み、100℃のオーブンで20分程度焼く。十穀米にイサキの真蒸を重ねて、蒸し、先のアラの餡を掛ける。

大阪料理会
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◆6月のテーマ食材「和芥子わがらし  北野博一氏の献立
玉蜀黍羹の芥子乳化ソース掛け、
		苦瓜と鯛皮鶏笹身ノ芥子味噌和え、鯉洗い芥子ジュレ醤油添え

【料理について】

「玉蜀黍羹の芥子乳化ソース掛け」は、トウモロコシを油で炒めたものをだしで煮て、裏濾し、これを寒天と板ゼラチンで固めている。和芥子、酒粕、太白油で乳化ソースとしている。
「苦瓜と鯛皮鶏笹身ノ芥子味噌和え」では、油で炒めたゴーヤをだしに漬け、鯛皮は茹でて刻み、笹身は塩蒸しに。白味噌8に対して田舎味噌2を合わせた芥子味噌を、和え衣としている。
「鯉洗い芥子ジュレ醤油添え」は、鯉の洗いに生酢をし、粉末醤油で下味をする。ジュレ醤油は、和芥子にだし3・淡口醤油1を合わせてゼリー状にしたもの。


【総評】

「和芥子そのものも勉強になったが、それに合う食材と料理の選定が素晴らしかった」とする評が多く聞かれた。特に「苦瓜、鯛皮、そして笹身という取り合わせは絶妙で、非常に参考になった」とする意見が参加会員の中から寄せられていた。芥子には和芥子と洋芥子(マスタード)があるが、その違いについて、また和芥子の製法についての詳細な説明なども北野氏から行われた。万能のように考えられている山葵は、たしかに年中収穫することができる。しかし、山葵が持つ独特な辛みや旨みというものは、晩秋から冬にかけての旬でなければ得られないものである。そうした意味でも和芥子を見直す必要があるのではないだろうか。

玉蜀黍羹(とうもろこしかん)の芥子乳化ソース掛け
苦瓜と鯛皮鶏笹身ノ芥子味噌和え
鯉洗い芥子ジュレ醤油添え

和芥子を再考する。山葵(わさび)ばかりで、和芥子があまり使われなくなっている。和芥子には山葵では出せない魅力がある、それを再認識したいという狙いの試作。和芥子の作り方は、地芥子をすり鉢に入れ熱湯を注ぎ、目や鼻で刺激を感じるまで摺りこぎ棒で煉る。そのまますり鉢を逆さにして60分以上寝かせる。北野氏は「和芥子には大きく3つの魅力がある。ひとつは、辛み。もうひとつは、苦み。そして、香り」とする。今回の試作料理はそれらを念頭に置いたものであろう。


大阪料理会
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特別テーマ:知られざる郷土食材を和する

第24回:「一休寺納豆」

大徳寺納豆は料理人の間ではよく知られているが、一休寺納豆の存在を知る者は意外に少ないようだ。一休寺納豆は、その名の通りに一休禅師にゆかりある寺が発祥の納豆。大徳寺納豆は同禅師が老年に大徳寺住持となり広めたものとされている。一休寺納豆の作り方は、蒸した大豆とはったい粉に麹を混ぜ、これを塩湯の桶に入れて、年中かき混ぜてできる。非常にうま味の強い納豆とされている。

夏野菜と焼帆立貝の一休寺納豆オイル掛け
大阪料理会 大阪料理会 

城崎栄一氏の献立

夏野菜と焼帆立貝の一休寺納豆オイル掛け

一休寺納豆を酒に漬けて煮溶かし、オーブンで焼いた帆立貝をほぐして合わせる。太白油を加え、軽く火を入れ、乳化させ、一休寺納豆オイルとしている。さっぱりとした味わいは夏の魚菜との相性も良い。



北野博一氏の献立

大阪シジミと蓴菜(じゅんさい)の一休寺納豆椀

一休寺納豆を味噌のように煮溶かし、その上澄みを使った椀仕立て。シジミだしと一休寺納豆のうま味が重なり合い、またそれらの味わいが淡泊な蓴菜の食感と相俟った椀物となっている。





撮影/藤澤 了  文/笹井良隆