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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第103回〉
2019年 7月

今月の前菜は夏らしい「虫籠盛り」。虫籠は前菜を盛るためのひとつの演出にすぎないかもしれないが、この風情こそがご馳走になる。古風とされるこうした日本料理におけるひとつの型も、継承されなくては滅びてしまう。次代へと託された者が受け取るのは型だけでなく、それを継いで欲しいと願う想いも、またそこに込められていることを忘れてはならない。



北野博稔さん 北野博稔さん

日本料理 喜一

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ぐるなび
大屋友和さん 大屋友和さん

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長内敬之さん 長内敬之さん

旬鮮和楽 さな井

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◆8月の前菜テーマ「虫籠盛り」
北野博稔氏による前菜料理
前菜「虫籠盛り」

虫籠盛り

・鱧の子寄せ 氷室羹
・小切り茄子 寿司
・青竹串 赤万願寺鱧皮射込み 新薩摩芋檸檬風きんとん
・毛馬胡瓜(あかねこ)金針菜 胡麻浸し
・花蓮根雲丹玉射込み


大阪料理会

涼を誘う一品としての氷室羹。鱧の子や浮き袋を茹で、酒・みりん・淡口醤油・一番だしの地で煮込み、流し缶へ。氷の見立ては昆布だしに糸寒天、食感を考慮して少量のゼラチンが加えられている。虫の見立てには、小切り茄子。半分に切って揚げ煮に。山葵(わさび)でなく、地芥子を使っているのが面白い。虫籠につきものの青竹は串とし、鱧皮とすり身を合わせたものを射込んで蒸し上げた赤万願寺と、新さつま芋を使った檸檬風味のきんとん団子を。完熟の毛馬胡瓜(あかねこ)を使った一品は、金針菜との胡麻和え。花蓮根は甘酢に漬け、そこに茹でた黄身玉子と煉り雲丹、クリームチーズが射込まれている。


【総評】

「虫籠は器としては面白いが、小さいので盛りづらいとされている。しかし、今回は色合いなども良く、コンパクトながらバランスのとれた前菜となっている」との評が多く寄せられた。調理に対する質問としては、氷室羹が非常に美しく、食感も見事で、糸寒天とゼラチンの分量のバランスについての質疑応答がなされた。食材への質問として毛馬胡瓜(あかねこ)や金針菜への質問があがっていた。運営委員からは、全体的に甘味をもう少し押さえた方が良かったのではないか、とのアドバイスが。また、会長からは虫籠は初夏・盛夏、そして秋とあるので、それぞれの季節に合わせて、さらに研究をしてはどうだろうか、と参加会員への呼びかけがなされた。

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◆7月のテーマ食材「真鯒まこち  長内敬之氏の献立
真鯒の青呉汁

【総評】

鯒は主役にはなりづらい夏の魚。その鯒を一椀に凝縮させた料理。三枚におろした鯒の身と粗に薄塩をしておく。また腸や胃袋は塩辛に、卵巣にも塩をして唐墨仕立てにしておく。鯒の粗でだしをとり、身は切れ目を入れ、皮を炙る。内臓で作った塩辛は酒でさっと炊き、裏濾しし、卵黄入りの葛豆腐とする。青呉汁は、枝豆を生のまま皮をむいて刻み、あたり鉢であたって裏濾す。鯒のだしに白味噌と枝豆を入れて調味。上身は鯒のだしで温めておく。椀に葛豆腐・鯒・パプリカ・冬瓜を盛り付け、唐墨をおろし金でおろして鯒の上にのせる。

真鯒の青呉汁

「まさに鯒を堪能できる料理」「味わいも素晴らしいが、鯒ならではの食感が大きな魅力」との感想が多く聞かれた。48℃で鯒の上身を低温調理する方法などについての質疑応答がなされた。運営委員からは「枝豆のざらつき感が気になるので、ここはミキサーなどでなめらかさを狙ってもよかったのではないか」とする意見と、それとは反対に「これが青呉汁らしい味わい、枝豆感もあってこれはこれで面白い」とする意見なども寄せられていた。


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◆7月のテーマ食材「なまず  大屋友和氏の献立
鯰乃魚醤焼 水茄子緑酢掛け

鯰乃魚醤焼 水茄子緑酢掛け

最近、鰻が絶滅危惧種のレッドリスト指定にされたこともあり、注目を集めるようになったのが鯰。ここでは鹿児島産の鯰が使用された。魚醤焼きは、上身にした鯰をイカナゴの魚醤・濃口醤油・酒の地で洗い、3時間漬け込んでいる。串を打ち、地をかけながら焼き上げていく。水茄子の糠漬けには、胡瓜・鮎蓼(あゆたで)・土佐酢を合わせ、かけている。

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鯰発酵玉葱煮

【総評】

「いずれの料理も美味であった。鯰はやはり焼いて味の出る魚であることを再認識した」とする意見が寄せられていた。また調理についての質問が多く、中でも発酵玉葱については、鯰の独特な臭さを消すために玉葱の発酵酢を利用したという狙いと手法が大屋氏から紹介された。さらに、鯰そのものに対する質問について大屋氏は「鯰は小骨がないので非常に調理しやすい。また、今回の鹿児島産の鯰は完全養殖で、強い臭みなどを感じないものとなっている」などの説明がなされた。運営委員からは「鯰といえば、鰻の代用品のような認識がなされているが、そうではなく、鯰ならではの味わいをもっと追求することも大切なのではないか」とするコメントもなされていた。

鯰発酵玉葱煮

鯰の発酵玉葱煮は、玉葱をスライスしたものに塩をなじませ、米のとぎ汁・鷹の爪と合わせ、4〜5日置いて発酵させる。三枚におろして素焼きの鯰と、先の発酵玉葱を鍋に入れ、昆布だし・塩・淡口醤油で炊いている。炊いた玉葱を取り出してミキサーにかけ、太白ゴマ油を加えてピューレとしてかける。

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特別テーマ:知られざる郷土食材を和する

第25回:「似鱚にぎす

ニギスはキスに似ているが、キスとは別の種類の魚。石川県や福井県あたりではメギスと呼ばれている。干したものを家庭での煮物などに使うほかに、かまぼこ用の材料など、いわゆる潰し物として利用されている。

夏野菜と焼帆立貝の一休寺納豆オイル掛け
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長内敬之氏の献立

ニギスの射込み餡掛け

市場に多く出回っている干物のニギスと、生をミンチにしたものを使った料理。管牛蒡に生ニギスのミンチ、刻み白葱やおろし生姜・田舎味噌などを合わせたものを詰めて蒸す。加賀太胡瓜(かがふときゅうり)にも同様にニギスのミンチを射込んで、薄衣で揚げている。干したニギスは酒と水と昆布に一晩浸けて取り出して火を入れ、だしをとる。ニギスは48℃で30分間湯煎し、中骨を取って炙る。射込み牛蒡は海苔を巻き、薄衣で揚げ、加賀太胡瓜、そしてニギスとともに盛りつける。ニギスのだしに葛をひきパプリカのソースと共にかける。





撮影/藤澤 了  文/笹井良隆