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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第104回〉
2019年 8月

日本料理の世界ではよく、「素材7分に技3分」ということが言われてきた。そのままに受け取れば、良い素材があれば、さほど技はいらないということになる。ところが、良い素材を生かす技となると、これが難しい。今回の試作料理全般に通じるのもまた、そうしたところになるのだろう。前菜、そして各テーマにおいて収穫の多い定例会となった。



西村忠将さん 西村忠将さん

北新地 雅しゅとうとう

お店HP
ぐるなび
坂本 晋さん 坂本 晋さん

北新地 味菜

ぐるなび
松尾英明さん 松尾英明さん

料亭 柏屋

お店HP
ぐるなび



◆9月の前菜テーマ「軽少美味」
西村忠将氏による前菜料理
前菜「軽少美味」

軽少美味

冬瓜饅頭
・鼈(スッポン)寿司
・無花果の勾玉果(カシューナッツ)掛け
・勝間南京のゼリー 飛荒蝦 八尾枝豆
・フォアグラ最中

前菜料理では一般的に季節感や歳事などが表現されることが多い。しかし、そうした前菜の在り方もまた時代と共に変化しているようである。今回は、あえて前菜の常識にとらわれない、いわば通年前菜とでもいえそうな一皿が披露された。まずは冬瓜饅頭。ここでは渡蟹の身をほぐし、その殻とドライトマトでだしをとる。蟹身を冬瓜で包み、饅頭仕立ての薄葛餡掛けとしている。スッポンを使った寿司は、さばいたスッポンからだしをとり、ゼラチンで身と共に固めたものを寿司種としている。無花果とカシューナッツの前菜は、煎ったカシューナッツを木綿豆腐と合わせ、羽二重濾しにし、ユニークな食感と味わいのクリームを作り、無花果と合わせている。勝間南瓜と飛荒蝦は、南瓜を120℃で4時間ほど焼き上げ、これを濾す。飛荒蝦からとっただしと合わせてゼラチンで固めている。風変わりな最中は、62℃で40分間蒸したフォアグラと裏濾しした百合根、奈良漬けを最中生地で挟んでいる


【総評】

「それぞれに手の込んだ前菜で、一品としても通用するのではないか」という意見が聞かれた。中には「前菜としては、旨みが強すぎるのではないか」「箸で食べ辛い料理が多いが、あえてそれを狙ったものか」などの質問もあがっていた。調理への質問としては、だしをとる際に使ったドライトマトの意味や、勝間南瓜の焼き時間についての質問などが相次いだ。運営委員からの「前菜は、次の椀物を召し上がっていただくもの。また、次の料理への食欲をかき立てるものという意味もあるが、前菜の目的をどこに置いたのか」との質問に、西村氏は「食べ手側の前菜に対する期待度が高まっているように感じる。店としても、まずは前菜である程度の満足感とインパクトを与えることが必要」との試作の意図が説明された。東京、そして京都を含め、増加する海外などの観光客へのもてなしを考えたとき、日本料理における前菜の在り方にも変化が見え始めているのかもしれない。

大阪料理会
大阪料理会




◆8月のテーマ食材「冬瓜」  坂本 晋氏の献立
淀川蜆冬瓜

【総評】

「蜆、そして冬瓜という晩夏に相応しい食材を合わせた見事な料理」という評が多く寄せられた。また「蜆だしと冬瓜との相性の良さを発見させられた。薄味だが、その塩味加減が絶妙」とする声もあがっていた。様々な調理法への質問もあったが、最も多く寄せられたのが焼き生姜について。「新生姜は焼くことによって、独特なコクが出るだけでなく、渋みもなくなる」との説明が坂本氏からなされた。

淀川蜆冬瓜

蜆という食材の最大の魅力は、そのだしにあるといえる。淀川蜆が府下の多くの飲食店で使われているのも、まさにその濃厚なだしによるもの。今回は蜆だしと冬瓜の魅力を最大に引き出した試作。蜆はだしをとった後に身をはずしておく。冬瓜は薄皮を除いて青い部分を厚くむき、炭酸をすり込んで湯がいている。下の堅い部分は桂むきにして塩漬けに。中の部分は賽の目に切り、油で揚げ、油抜きしてから蜆だしで炊く。卵と蜆だしを合わせて卵地を作り、そこへ炊いた冬瓜と蜆の身を入れる。円形の流し箱に桂むきにした冬瓜を丸くして並べ、卵地を入れて蒸し上げる。最後に裏濾した冬瓜と蜆だし、板ゼラチンを合わせた餡をかけ、天盛りに焼いたみじん切りの生姜を添えている。

大阪料理会
大阪料理会




◆8月のテーマ食材「鱧」  松尾英明氏の献立

鱧叩き寄せ
鱧づけ炙り

鱧の鮮度を楽しむ、変わり造り二種が披露された。鱧の叩き寄せは、骨切りした鱧の身をこそげ、これに少量の太白油を加える。塩で味を調え、小口切りにした浅葱と混ぜ合わせる。この料理の原型は大阪料理のすすり鱠(なます)だろう。すすり鱠とは、こそげた鱧の身に卵黄を加えて味付けしたもの。鱧の旨みを堪能できる一品だ。鱧づけ炙りは、下処理した鱧を漬け地に。これを骨切りし、串を打って直火で炙っている。最後に山葵・実山椒ペースト・橘胡椒を添えている。


◆8月のテーマ食材「玉蜀黍(トウモロコシ)」  松尾英明氏の献立

【総評】

「鱧もそうだがトウモロコシも、その甘みと旨みが凝縮されている。素材を生かすという、日本料理の原点を再認識させられた」という賛辞が多く聞かれた。松尾氏は多くの質問に答えた後に、今回の料理について次のように語った。「トウモロコシの料理についてはヒントがあった。それはフレンチのコースを食べたときに出た鮎を使ったヴィシソワーズ。非常に手の込んだ料理で感心した。これを日本料理で表現したいと考えたのが着想。あえて素材にはあまり手を加えずに、素材の良さを生かすべきと考えた」。素材を厳選し、持ち味を最大限に引き出す日本料理。食べ手が料理に寄せる賞賛とは、つまりは素材が与えてくれる味につきる、ということなのだろう。

玉蜀黍(トウモロコシ)すり流し
鮎叩き寄せ 蓼葉オイル

トウモロコシの甘みを最大限に引き出したすり流しは、蒸したトウモロコシの実を手で押し出すように取りだし、これを水と共にミキサーにかけ、塩のみで味付けをする。鮎は竹串を打って素揚げし、さらに二度揚げ。これをフードプロセッサーにかけたものを裏濾す。濾せない骨などは包丁で叩く。これらを棒状にまとめ、凍らせておく。蓼葉オイルは、細かく刻んだ蓼葉に、塩・太白油を合わせてミルミキサーにかける。器にすり流し、上に鮎叩き寄せのスライス、そして蓼葉オイルを垂らしている。


大阪料理会
大阪料理会




特別テーマ:知られざる郷土食材を和する

第26回:「縞ささげ」

縞ささげは、飛騨・美濃地方の伝統野菜。サヤの表面に紫色の縞模様が入っていることから、この名が付いた。古くから高冷地で栽培されてきたことも関係するのか、昼と夜の気温差が大きいほど縞模様は色濃く現れ、熟した豆自体にも縞模様が入る。特に、秋は濃い縞模様が現れるので、秋縞ささげとも呼ばれている。

縞ささげ信田巻き

坂本 晋氏の献立

縞ささげ信田巻き

縞ささげを大阪料理風にアレンジした一品。湯がいた縞ささげを地に漬け込んで細切りに。乾燥した豆を水で戻して調味する。それを裏濾し、大和芋を加えて煉りあげる。これらを地で炊いた南関揚げで巻く。再び地に漬け込んだ後に盛付け、餡をかける。


大阪料理会
縞ささげ荏胡麻和え

坂本 晋氏の献立

縞ささげ荏胡麻和え

縞ささげと相性のよい荏胡麻(えごま)の和え物。湯がいた縞ささげを地に浸けておく。弱火で煎った荏胡麻をすり鉢であたり、調味し、縞ささげと和える。


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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆