amakaratecho.jp   www全体
大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第105回〉
2019年 9月

定例会では約2年にわたり「特別テーマ」を設け、そこでは全国の知られざる食材などを取り上げてきた。今回からそれに加えて、「割烹妙技」というコーナーがスタート。常の仕事を今一度見直し、手法をいかにブラッシュアップさせていくことができるか。その指導には元『割烹さか本』の坂本靖彦氏があたる。新旧織り交ぜ、どのような妙技が紹介されるのか楽しみなところだ。



辻 宏弥さん 辻 宏弥さん

法善寺 浅草

お店HP
ぐるなび
島村雅晴さん 島村雅晴さん

日本料理 雲鶴

お店HP
ぐるなび
菰田昌寛さん 菰田昌寛さん

料亭 梅廼家

お店HP
ぐるなび



◆10月の前菜テーマ「 芋尽し 実りの秋」
辻 宏弥氏による前菜料理
前菜「 芋尽し 実りの秋」

芋尽し 実りの秋

・子芋素麺 長芋掛け
・子芋と薩摩芋 共和え
・子芋味噌漬け(松笠仕立て)
・子芋唐揚げ(栗見立て)
・子芋と海老の真丈



大阪料理会

通常の前菜とは趣を異とした「尽し前菜」。月見と秋ということで、ユニークな芋尽し。まずは子芋素麺。桂剥きにした子芋を麺状にし、塩水に。これを食感が残る程度まで湯がき、旨だしに浸ける。長芋をおろし、子芋素麺の上に盛っている。子芋と薩摩芋の共和えは、蒸した薩摩芋を賽の目に切り出す。子芋は蒸して裏濾し、これに馬鈴薯(ジャガイモ)を加えて硬さを整え、和え衣にしている。味噌漬けは、子芋の皮をむき、松笠切りにして下茹で。これを味噌床へ2日間漬け込み、焼いている。唐揚げは、皮をむいた子芋を含め煮にし、これに芥子(からし)の実をつけて揚げている。海老の真丈は、まず卵黄を太白油で泡立ててマヨネーズ状に。海老は酒煎りした後に粗く刻む。子芋は蒸して裏濾し、塩で調味。フードプロセッサーで海老と子芋、マヨネーズ状の卵黄、卵白、みりんなどを撹拌し、滑らかになったら流し函へ入れて蒸す。


【総評】

「子芋だけで、これだけのバリエーションがあるのは素晴らしい」との賛辞が聞かれた。特に、松笠仕立ての味噌漬の調理法と味噌床に関しての質問が多く寄せられた。運営委員からは「意欲的でかつ面白い前菜であったが、五種の前菜としては味わいが均一すぎるのではないか」とする指摘とアドバイスがあった。また、ほかの運営委員からは「前菜という観点からすれば、食感などのバリエーションがあればもっと良かったのではないか」とする意見に加えて、「五種の中に酢のものをアクセントに入れて欲しかった」などの評が聞かれた。

大阪料理会




◆9月のテーマ食材「田楽」  菰田昌寛氏の献立

【総評】

京都では今でもよく見かけるが、大阪の料理屋では田楽はあまり供されない。今回はそんな田楽料理が取り上げられた。大阪で田楽味噌が廃れたのは味噌に問題があるのではないか。そこに着目し、試作にあたった菰田氏は、あえて味噌を使わない二種の田楽を発表した。ひとつは豆腐田楽。まず自家製豆腐を水切りし、裏濾しする。蒟蒻はミキサーにかけた後に冷凍。解凍し、さっと炒める。裏濾した豆腐に蒟蒻、ツクネイモを合わせ、塩などで調味し、成形して蒸している。味噌の代わりに鮎。子持鮎を4日間塩漬けに。塩を洗った後に炭酸水に1日浸けておく。頭と子を取り出し、刃叩きする。さらに裏濾し、なめらかなペーストに。先の擬製豆腐に塗り、焼いた後、さらにその上から蓼(タデ)の葉のペーストをのせている。次の茄子田楽は、まずトビアラエビを身と殻に分け、塩漬けに。半分量を炒め、残りは弱火で揚げる。両方の油をよく切って、ミキサーにかけ、刃叩きした後に裏漉ししてペーストに。トビアラを揚げた油で茄子を下焼きし、トビアラペーストと落花生を混ぜたものを塗って焼いている。

田楽二種 豆腐田楽
田楽二種 茄子田楽

「今までに食したことのない田楽」「串に刺さず、一品として使えるのではないか」という声が寄せられていた。また「そもそも田楽とは何か」との質問などもあがり、菰田氏が質疑応答にあたった。運営委員からは「非常に細かな仕事を重ねたもので、仕事過剰なのでは。味噌にこれだけ仕事をするのであれば豆腐まで作る必要はなかったように思う」とする感想などがあった。『喜一』の北野委員からは京都における田楽豆腐の話が、畑会長からは田楽の由来などが紹介された後、「田楽であるからには串だけで食べられる工夫も必要。豆腐が大きすぎて串では持てなかったのが残念」とするコメントなども聞かれた。
大阪の神事から生まれたとされる田楽料理。それが京都、そして関東へ渡り、形を変えて関東炊きとなり、おでんが生まれたことを思うと、今一度大阪らしい田楽料理を再考してもよいのではないだろうか。


大阪料理会
大阪料理会




◆9月のテーマ食材「金太郎鰯」  島村雅晴氏の献立
金太郎鰯の棒襟寿司

【総評】

「見た目には、棒寿司にしては大きすぎるのはないかと感じたが、食べてみるとちょうど加減がよい」「最初は少し硬いかと感じたが、そうでない。押し寿司としての完成度も高い」などの賛辞が多く寄せられた。また使用された大阪湾の金太郎鰯についての質問も多くあった。定例会に特別参加していた大阪市漁協の畑中課長によれば「大阪湾の金太郎鰯のほとんどは脂ののりの良さを評価してくれる豊洲など関東市場へと送られている。もっと大阪の料理人も目を向けて欲しい」との説明がなされた。最後に畑会長は「この棒襟寿司は、まさに令和時代の大阪料理に相応しい一品。大阪料理会の会員は、こうした新たな大阪名物となりうる料理を皆で広めていただきたい」とのコメントを付け加えた。

金太郎鰯の棒襟寿司

棒襟(ぼうえり)寿司という料理は存在しない。これは島村氏が命名したものである。名の由来は文楽人形にあるそうで、文楽人形は襟に詰め物をすることでふっくらとした優しい胸元を演出している。絶妙の襟表現。いわゆる棒寿司というものはあるが、棒襟寿司とはいかにも文楽の大阪らしい。
鰯は手開きにし、塩をして酢で〆ている。中骨と尾は柔らかくなるまで焚き、これを2つに分け、甘辛く味付けしたものと酢で仕上げたものを作り、それぞれ粗く砕いておく。だし昆布を梅干しと醤油で柔らかくなるまで炊き、これをミキサーでペースト状にし、寒天で固めている。そぼろ状にした中骨と尾は寿司飯に挟み押し寿司に。上に〆鰯、そして寒天で固めたものをのせ、型抜きした人参などの彩り飾りを着物の柄のように配している。

大阪料理会
大阪料理会




特別テーマ:割烹妙技

第1回:「酢味噌」

酢味噌または、和芥子を加えた芥子酢味噌は「ぬた」ともよばれている。様々な作り方があるのは、「和え」「掛け」「付け」といういろんな場面で使われるからであり、味を決める妙ともなっているのだろう。ここでは、各々の作り方で3つの酢味噌が披露された。

縞ささげ信田巻き
大阪料理会 大阪料理会 

ひとつは島村氏による和えもの。味噌・卵黄・砂糖・酒を合わせて火にかけて玉味噌を作る。酢でのばした後に芥子が加えられている。
辻氏は、ごくシンプルに白味噌と酢を使ったもの。
菰田氏は変わり種の赤味噌を使ったもの。赤味噌(八丁系)100gに砂糖65g、そしてこれに煉り胡麻が少量加えられている。味噌に合わせる酢については、各会員から米酢や果実酢など意見があがった。




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆