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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第106回〉
2019年 10月

前回からの特別テーマ「割烹妙技」。第二回目は「白和え」。この料理もまた店ごとに異なった調理法があるが、令和の時代における大阪料理の白和えをどう考えるか、さまざまな意見が交わされた。
そして、今回は関西において激増しているイスラム圏観光客に対するハラールを日本料理でどう考えるかなどの試食や討論が行われた。



山本 英さん 山本 英さん

片町 はしま

お店HP
ぐるなび
広里貴子さん 広里貴子さん

貴重

お店HP
菰田昌寛さん 菰田昌寛さん

料亭 梅廼家

お店HP
ぐるなび



◆11月の前菜テーマ「五色霜林ソウリン
山本 英氏による前菜料理
前菜「五色霜林」

五色霜林

・五色膾(マス)
・茄子と蒸し雲丹の茶巾
・大阪菊菜と黄鶏ノ紅葉颪(おろし)和え
・つぶし銀杏含め煮
・黒おはぎ初霜仕立て



大阪料理会

日本料理において「五」は五味や五色など多様な意味で使われる。今回は11月の前菜ということで、その五色を霜月に例えた趣向となっている。
まずは五色の膾。この料理は白で表現され、酢味を意識したもの。桂むきした大根を甘酢に漬け、サーモン・胡瓜・玉子・黒板昆布を巻いている。
秋茄子を使った雲丹茶巾は緑で塩味。素揚げした茄子を蒸し、雲丹と合わせ茶巾にしている。
大阪菊菜と黄鶏(かしわ)の紅葉颪和えは、赤色で辛味。鶏モモ肉を炭火焼きにし、身はだしに浸す。さっと湯がいた大根おろしに裏濾しした赤おろしと黄身で紅葉颪にしている。
つぶし銀杏は黄色と苦味を表現。湯がいた銀杏を軽くつぶし、だしで煮詰めている。
黒豆を使ったおはぎの初霜は甘味。裏濾しした黒豆に、黒の煉り胡麻と砂糖を加えて自家製餡子を作る。蒸した餅米と湯がいた栗を包み黒おはぎにしている。上には純白の粉砂糖をあしらい、初霜を演出している。


【総評】

「彩り、味など非常にバランスがとれた前菜」「素材の持ち味を生かした完成度の高い前菜」などの賛辞が多く寄せられた。五色膾については「正月のお重に活用したい」といった声も聞かれた。また大阪菊菜と黄鶏の紅葉颪和えやつぶし銀杏は調理法に関するさまざまな質問が寄せられていた。黒おはぎで使用された黒豆については「正月のお重料理で大量に出る皮の破れたものを活用する方法として考案した」という山本氏からの説明があった。運営委員からは「全体としてまとまりが良かった。ただ前菜なので黒色の甘味をもう少し控えるべきだったのでは」とのコメントがなされた。

大阪料理会




◆10月のテーマ食材「河内蓮根」  広里貴子氏の献立
河内蓮根いとこ煮 太刀魚 蓮の実揚げ餡掛け

河内蓮根いとこ煮
太刀魚 蓮の実揚げ餡掛け

いとこ煮は非常にポピュラーな郷土料理だが、そのルーツや由来が未だよく分かっていない。また、各地方にそれぞれに異なったいとこ煮がある。今回はそのいとこ煮の蓮根版で、根菜における火入れ加減などが試作を通じて問いかけられた。また、同料理をハラール仕様として調理した場合はどうなるのかも合わせて試作された。
渋抜きした小豆を蓮根に詰め、ガーゼに包んでロース糸で縛り、圧力鍋で茹でる。昆布、酒、味醂、淡口醤油、砂糖で味を付ける。太刀魚は銀皮を除き、三枚におろしたものに薄塩し、すりおろし蓮根で二枚重ね合わせにする。強力粉、溶き卵、蓮の実をミルで砕いたものを順につけて油で揚げている。蓮根を炊いた一番だしを醤油などで調味し、葛を引いた銀餡を掛けている。

同上 ハラール対応仕上げ

【総評】

「ハラールについては、話には聞いていたが、実際に料理を試食、比較できる機会が持てて良かった」「実食してみると酒や味醂とは違ったうまさもあって発見だった」とする評などが寄せられた。蓮根のいとこ煮の火入れについては「圧力鍋という方法は初めて聞いた」とする意見や「圧力鍋には良いところもあるが、弊害となる部分もある。この場合は少し煮詰めすぎたという点で悪い部分が出たのでは」とするコメントなども寄せられた。運営委員からは「河内蓮根のいとこ煮であるのなら、ただ柔らかいというだけでなく、糸を引くようなもちっとした食感を残して欲しかった」とする評がのべられていた。

同上 ハラール対応仕上げ

同料理のハラール仕様では、味入れに使用した酒と味醂を「水あめ」に代えている。また淡口醤油もハラール仕様のものに代えられている。太刀魚が使用されているが、シーア派など鱗のない魚を食べることを禁忌としている宗派もあるので注意が必要である。


大阪料理会

「関西でハラールが注目されているのは、イスラム教徒(ムスリム)の方の関西国際空港の利用が非常に多いことから。関西の飲食店では今後さらにハラールへの対応が求められると思います」。ヒガシマル醤油の板井部長より、ハラール仕様の淡口醤油についての説明が行われた。





◆10月のテーマ食材「藻屑蟹もくずがに  菰田昌寛氏の献立

【総評】

「とても秋らしい料理」「道明寺と土佐酢との加減が絶妙」などの賛辞が相次いだ。また「藻屑蟹を食べる機会がない、下処理など分からないことが多い食材」とする声も聞かれた。
運営委員からは「道明寺で秋祭に藻屑蟹を食する習慣は、道明寺周辺にだけ残されたもの。こうした食文化を今後も大切にして欲しい。今回の料理は店で秋時期に食べられる名物料理としてもよいのではないか」とするコメントなども聞かれた。川魚料理が多い京都でも藻屑蟹を専門とする料理屋はあまり聞かないが、大阪にはまだ数軒残っている。藻屑蟹は大阪料理の食材として今一度復活させる意義があるのではなかろうか。

藻屑蟹ノ道明寺蒸寿司
錦秋(キンシュウ)仕立

藤井寺市道明寺の参道では秋祭に必ず食されてきたのが藻屑蟹。多くの屋台も出て、まさに秋の味であった。そんな道明寺門前にある料亭『梅廼家』の菰田氏が披露したのが藻屑蟹を使った道明寺蒸寿司。菰田氏によると「今では界隈で藻屑蟹を扱う業者もなくなってしまいました」とのこと。今回は四国の藻屑蟹を使っての料理となった。藻屑蟹は氷でしめたあと、鍋に酒と水、生姜を入れて火にかけている。アクを除きながら10分程度焚き、おかあげして、焚いた煮汁には鰹を入れて濾している。蟹身をせせり、味噌(ミソ)は裏濾す。道明寺粉を鰹出汁、土佐酢で戻したものに蟹身を射込んで丸にとる。人参と南瓜は針打ち、人参は下茹で後に焚き、南瓜は直焚きに。蟹に淡口と塩で味入れし、葛を引いて菊菜を入れて餡をつくり、蒸した道明寺を盛りつけ、天に蟹味噌・南瓜・人参・茗荷を盛り錦秋としている。


大阪料理会
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特別テーマ:割烹妙技

第2回:「白和え」

白和えには多種多様な調理法があるが、白和えを考えるには先ずは「和え衣」を考えてみるべきだろう。今回は、豆腐を使った基本的な白和えのアレンジ版(広里貴子氏)と、豆腐ではなく大豆で作る白和え(菰田昌寛氏)の二種が披露された。

縞ささげ信田巻き
大阪料理会 大阪料理会 

「豆腐ノ和え衣」による、
合鴨と薩摩芋の白和え
(広里貴子氏)

木綿豆腐 胡麻ペースト 白味噌 砂糖 淡口醤油 酒粕

※木綿豆腐は水切りしミキサーで混ぜ、胡麻ペースト、白味噌、砂糖、淡口醤油、酒粕 入れて調味し、白和え衣を作る。



「大豆の和え衣」による、
大豆白和え
(菰田昌寛氏)

大豆 昆布出汁 塩 酒 砂糖 淡口醤油

※一晩水に浸けた大豆を火にかけ戻し、昆布出汁と合わせ、淡口・酒・砂糖・塩で焚く。冷めて味が入った大豆を岡あげし鉢であたり裏濾し、煮汁でかたさを調整し和え衣とする。




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆