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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第107回〉
2019年 11月

早いもので本年の大阪料理会も最終月となった。毎年のことだが12月は行わずに11月に2度の開催で締めくくりとなる。年末の前菜はテーマが難しく、今年は冬至、そして一陽来復(いちようらいふく)ということで披露された。また、今回で3回目となる割烹妙技のテーマは「造り醤油」。活鯛など魚の生食文化が独自発展してきた大阪ならではの造り醤油。そのこだわりについての討議がなされた。



大引伸昭さん 大引伸昭さん

大阪あべの辻調理師専門学校

お店HP
上野 修さん 上野 修さん

浪速割烹 喜川

ぐるなび
松尾慎太郎さん 松尾慎太郎さん

北新地 弧柳

お店HP
ぐるなび



◆12月の前菜テーマ 〜前八寸 冬至「一陽来復」運をつかむ〜
大引伸昭氏による前菜料理
前菜

一陽来復

・きんかん白和え
・銀鱈にんじん味噌焼き
・れんこん饅頭
・なんきん羊羹
・翡翠ぎんなん

五種の料理それぞれが、いずれもひらがなで表記されているのは「運(ん)」に関係しているからである。上方語で口合いは語呂合わせ。つまりはシャレであり、ユーモア。料理名の中に「運(ん)」を盛り込み、縁起を担ごうというわけである。きんかん白和えは、金柑を直煮にして急冷する。豚バラの表面は針打ちにし、塩をして真空で一晩寝かせている。これを湯煎して、さらに紅茶葉で燻製にしている。和え衣は裏漉しした豆腐に、砂糖・塩・淡口醤油・酢橘。銀鱈にんじん味噌焼きは、銀鱈に薄塩をし、白味噌床に一晩漬けておく。金時人参と洋人参を蒸してミキサーに入れ、白味噌・ねり胡麻・卵黄・煮きり酒を加えて煉った人参味噌を乗せて焼き上げている。れんこん饅頭は、蓮根をおろして水気を切り、浮き粉・卵白・卵の素・塩を加えて蒸している。これに山葵(わさび)漬けとおろした山葵を混ぜて丸にとり、おかき揚げとしている。なんきん羊羹は、南瓜を蒸して裏濾しし、鍋に水と戻した寒天を入れ、三温糖を加えて炊き上げ、流し函に入れて冷やし固める。薄力粉・塩・卵・バター・牛乳・振り柚子を混ぜ、クレープ状の生地を焼き、棒状にした南瓜を切り分けて巻いている。翡翠ぎんなんは、銀杏の薄皮を除き、切込みを入れておく。海老をすり鉢であたり、さらに葛粉・卵黄・塩を加え、銀杏の切り込み部分に下粉を打って、生地を詰めて揚げている。


【総評】

「五種それぞれに香りがあって、優しい前菜」「安定感のある味わいが揃った前菜」「苦みや酸味など味わいのバランスがよかった」などの賛辞が聞かれた。調理法への質問としては、紅茶葉による燻製の手法、さらには人参味噌の作り方についての質疑応答などが行われた。運営委員からは「全体としてまとまりのよい前菜であったが、先付とするなら、少し重いのではないか」との意見に合わせて、コース料理の中における先付についての考え方が述べられた。また、他の運営委員からも「先付としての考え方にもよるが、全体的に味わいが濃すぎるのでは」との評があった。最後に、畑会長から現代の日本料理における八寸をどう捉えていくべきかについてのヒントが紹介された。

大阪料理会
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◆11月のテーマ食材「秋鰆」  上野 修氏の献立


【総評】

「鰆のアラなどを有効活用した始末の料理、しかし素材本来の味わいはしっかりと分かる」「この料理は日本版の新しいクネルという方が相応しい。非常に面白く、また美味」など多くの賛辞が寄せられた。質疑応答では鮒寿司の飯を使ったソースへの質問が多くあった。「鮒寿司独特の酸味と、それとはまた違った梅の酸味と旨み、そして優しい味わいと色合いのカリフラワー。このソースは他にも応用できる」とするコメントも寄せられていた。

秋鰆の軽羹(かるかん)

魚編に春と書いて鰆。しかし、鰆の旬を味わえるのは秋だろう。おそらくは、過去には生食が難しい魚であったがゆえに、漁獲量の多い春を旬としてきたのではないだろうか。今回はその鰆のアラなどの部分も使う、大阪料理らしく始末の心で仕上げた逸品。鰆の上身や剥き身などを集めておき、すりおろした山芋を加えてフードプロセッサにかけ、淡口醤油で下味をつけている。これをボウルに移し、煎った胡桃と白木耳(きくらげ)を加えて、メレンゲと共にざっくりと混ぜ合わせ、流し函に入れて蒸し上げている。ソースは、鮒寿司の飯を裏濾したものと、クリームチーズ・梅を合わせ、さらに炊いてミキサーにかけたカリフラワーを混ぜ合わせたものが添えられている。

大阪料理会 大阪料理会




◆11月のテーマ食材「カマス」  松尾慎太郎氏の献立


【総評】

「盛りつけが秋らしい」「カマスの新しい食べ方として面白い、この料理は懐石でいうところの預け鉢として位置付けできそう」などの評がなされた。質疑応答は、今回使用された舞茸についての質問が多く、これについて松尾氏は「身を柔らかくする、いわゆるタクパク質分解酵素として使用できるものとしては、ほかにも塩麹や玉ネギやキウイフルーツなども考えられたが、今回は舞茸の使い方も含めて試作してみました」との狙いを説明した。また運営委員からは「カマスの柔らかさは、おそらくは脂が大きく関係しているのではないか。そうすると、どこで獲ったカマスかによっても調理法は違ってくる。その辺りも今後さらに研究が必要だろう」「柿の甘さが気になった。生ではなく、干し柿が良かったのでは」とするアドバイスもなされていた。

干しカマスと舞茸 柿
大阪菊菜 酢橘浸し

カマスは一夜干しにすることで旨みが増すが、身が硬くなる。これを柔らかく、美味しく供することができないか、とする試作料理。三枚におろしたカマスは薄塩をし、脱水シートで挟む。カマスの骨に塩をし、水と昆布でだしをひく。フリーザーバッグに舞茸と脱水したカマス、だしを入れ、これを一晩漬け込む。カマスを取り出し、半日干す。漬け込んだ地を舞茸と共に鍋で炊き、酒・みりん・淡口醤油で調味し、酢橘を加える。湯がいた大阪菊菜と千六本に切った柿を、さきほどの地に浸しておき、干したカマスを焼いて手で割き、和えている。


大阪料理会
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特別テーマ:割烹妙技

第3回:「造り醤油」

大阪では、刺身ではなく「造り」と呼ぶ方が適切だろう。これは生魚を切ることを造るといわれたことからきているもので、その由来は大阪歌舞伎にあるともされている。今回はそれぞれの店で工夫されているであろう造り醤油についての割烹妙技がいくつか披露された。


料理:上野修氏

白身魚に合う造り醤油
<例:煎り酒醤油>

江戸時代の調味料の代表格とされる煎り酒。鍋に酒や昆布や梅干しを入れて、これを煮きっていくことで、昆布の旨みと梅の香りなどを移していく。今回はさらに、この煎り酒に、ヒガシマル特製の「龍野乃刻」で調味している。爽やかな旨みと塩味、酸味が白身魚の上品な味わいをさらに引き立てている。

赤身魚に合う造り醤油
<例:粉納豆醤油>

造り醤油として納豆醤油はよく使われるが、今回は糸引納豆を当たり鉢で潰し、土佐醤油を加えたものを湯煎で粉状にしている。赤身魚の脂のクセを消して旨みを味わえる醤油の一例。


料理:松尾慎太郎氏

生魚焼き霜醤油
<例:焼き霜造り醤油>

白身魚に向く醤油として紹介。「龍野乃刻」に酢橘を加えた地に三枚におろしたマナガツオを浸し、浸した地だけを鍋に移して薄葛を引き、そこに湯がいたトンブリを混ぜて薄葛餡とする。皮目を焼き霜にし、造り身にして掛ける。

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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆