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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第113回〉
2020年 9月

9月の定例会から試作発表は、2名の会員による各々2品の計4作品で討議が行われることになった。また、今月からスタートした政府の対策「GO TO トラベル」に引き続き、来月からは飲食店を対象とした「GO TO イート」も行われる。こうした制度利用についての解説や心構えなどが開催前に畑会長よりなされた。



久保田 博 久保田 博さん

割烹 くぼた

お店HP
ぐるなび
中村正明 中村正明さん

和洋遊膳 中村

ぐるなび



◆9月のテーマ「大阪湾太刀魚」  久保田 博による献立

秋も少し深まってくると、小魚を求めて太刀魚が大阪湾に多く入ってくる。しかし、こうした太刀魚は小ぶりなため、料理店としては使いづらいところもある。今回の試作では、小さな太刀魚や細く扱いづらい太刀魚の部位などを料理店がどのように生かすかの提案とヒントが多く込められていたように思う。

太刀魚饅頭秋色庵掛け

太刀魚饅頭秋色庵掛け

まず、太刀魚饅頭秋色庵掛け。太刀魚の頭やカマなど細い部位に塩をして、味噌漬けにしている。二晩漬け込み、蒸して、身肉をほぐす。小芋を八方地で焚き、これに太刀魚の身肉、とんぶりを混ぜ込む。成形し、薄力粉でまぶして揚げている。庵は菊菜と黄菊、そしてきのこをだしで炊いたものを淡口醤油で調味。秋の大阪湾の太刀魚に大阪らしい菊菜に、季節の黄菊。すばらしい庵掛けだといえよう。

太刀魚燻製白胡麻寿司

【総評】

「大阪料理の始末の精神が随所に生かされたすばらしい料理」「季節感だけでなく、太刀魚の良さも感じさせてくれる試作」などの評が多く聞かれた。また参加会員から今回の試作の意図を聞かれた久保田氏は「この料理の狙いのひとつには、日本酒とのマッチングがある。秋上がりなど芳醇でコクのある酒が出回る時期なので、そうした酒に合う料理としても考えた」とのやりとりがなされた。運営委員からは「饅頭の中のとんぶりに食感があまりなかったのは残念。混ぜ込んだことに原因があるように思うが、混ぜ込むのではなく中に入れ込むという手法もあったのではないか」とのアドバイスがなされた。また、燻製寿司ではクッキングシートを使った燻製薫のつけ方についての討議や日本料理も新しい薫りの楽しみ方の提案が必要とされているのではないかとする、意見が寄せられていた。

太刀魚燻製白胡椒寿司

次に太刀魚燻製白胡椒寿司。こちらは太刀魚を三枚におろし、強めの塩をしてクッキングシートに挟み、一晩寝かせている。皮目を炙って、サクラチップの燻製鍋にかける。この際に煙でシートも蒸す。太刀魚をこのシートで包んで一晩おくことで燻製薫を強めている。最後に大葉をはさんで棒寿司を仕上げ、供する時にマレーシアの白胡椒を掛けて薫りを豊かにしている。


大阪料理会
大阪料理会




◆9月のテーマ「秋鱧」  中村正明による献立

江戸時代から大阪で好まれてきた秋鱧。脂がのり大形だが、骨切りが難しいなどから最近ではあまり使われなくなっている。試作は定番的な鱧料理とは異なった手法で秋鱧の魅力を引き出した2品となっている。

秋鱧煮麺

秋鱧煮麺

まずは秋鱧煮麺。鱧の頭や骨を焼き、炒めた玉ネギと合わせてだしをとっている。これは大阪泉州の郷土料理である鱧と玉ネギの出合いものがヒントとなっているようだ。濃厚な鱧だしをとり、これを淡口醤油などで調味し、湯がいた素麺を盛り、骨切りした鱧身肉・ネギに山椒をのせている。また、この料理にはセモリナ粉を使った素麺が使用されているのが面白い。


大阪料理会
秋鱧押鮨

【総評】

「多くのヒントが詰まった秋鱧料理、非常に参考になった」などの賛辞が多く聞かれた。また「鱧をそのまま焚くのではなく、素焼きしてから焚くことで押し鮨に最適なものとなることが試食して分かった」という意見が寄せられていた。これに対して中村氏は「鱧をそのまま焚いたのでは、鮨にした時にシャリとの一体感がなくなる。上身が硬くて、下が柔らかくて食べづらい。けれど、一度素焼きすることで同じ柔らかさを得ることができるのではないか」との説明を行った。併せて、なぜ煮麺にセモリナ粉の素麺を使用したかについても「秋鱧のだしは濃厚さが特徴。ラーメンのスープに近いものがある。これを活かすには素麺よりも、よりコシが強い麺が最適」とする持論を述べた。

秋鱧押鮨

次に秋鱧押鮨。骨切りした秋鱧を串で素焼きしてから、だしで焚いている。また、鱧を捌いた際に出る細い部位も使用する。これらをほぐし、煮て微塵切りにした干し椎茸とゆかりとともにシャリへ混ぜ込み、押し型に詰めて押し鮨としている。隙間無く詰め込む押し鮨だからこそ、細い部位も有効に活用できるのである。


大阪料理会





撮影/藤澤 了  文/笹井良隆