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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第118回〉
2021年 6月

3度目の緊急事態宣言を受けて、4・5月は休会となり、2カ月ぶりの開催となった。コロナ禍ということを配慮して参加人数を制限し、さらにZoomでの参加も可能に。と同時に、発表された料理の手順を一部、動画に収め、こちらも会員の間で公開された。今回は、「七夕」「鼈(スッポン)」などをテーマに、会員2名による料理の発表が行われた。七夕の料理では、節句や行事などを料理で表現することで、今や薄れつつある日本の習わしを次代に伝えることの大切さが語られ、すっぽんだしや冬瓜を使った意欲作も登場。いつもにも増して盛会となった。



松尾英明 松尾英明さん

千里山 柏屋

お店HP
ぐるなび
辻 宏弥 辻 宏弥さん

法善寺 浅草

お店HP
ぐるなび



◆6月のテーマ「七夕」  松尾英明による献立
献立1

車海老と野菜の煮凝り 辛子酢味噌
平貝づけ炙り 黒七味
糸瓜とオクラ天の川見立て

「糸瓜を天の川に見立て、織姫にちなんで織柄のような煮凝りと、牽牛(けんぎゅう)をイメージしてタイラギの炙りを配しました」。料亭を営む松尾さんは、折々の節句の表現を大切にしている。今回は、料理に五色の短冊と梶の葉を添え、七夕の習わしをも伝えようと考えた。梶の葉は、葉裏に産毛があることから墨がのり、宮中では和歌や願いごとをしたためていたという。
煮凝りは、車エビの旨煮、干し椎茸の含め煮、ゴボウの含め煮、金針花の浸しなどを寄せたもの。牽牛にちなんで、人参と大根は手綱(たづな)抜きにしている。流し缶にまずゼラチンを溶かしただしを少し流して冷やし、半ば固まったところで材料をゼラチンだしに潜らせて並べる。その上から、またゼラチンだし。丁寧に仕立てることで、透明感のあるだしと色とりどりの具材の美しい層を描き出している。
平貝はづけダレを絡め、炙って黒七味を。糸瓜はお浸しに。これを盛り合わせ、煮凝りには辛子酢味噌を添え、振り柚子をして仕上げた。


献立2

【総評】

七夕の料理は、煮凝りの麗しさに多くの賛辞が寄せられた。配色、食材の切り方や味の含ませ方、そして、だしの層の透明感。切り出した角の美しさ。これほど完成度高く仕上げるコツはどこにあるのか? 様々な質問が飛んだ。松尾さんは「今回は織柄がテーマだったので色とりどりに仕上げましたが、初夏には白、薄黄色、緑色を主にしています。こうした色合せをすることで季節感が強調されます」と解説。酢味噌には醸造酢ではなく、スダチを使って、清涼感たっぷりに仕上げていることも明かした。畑会長は、「日本料理のコースや会席は、その月ごとのストーリーがあればこそ楽しい。節句や行事を表現した料理にもっと取り組んでほしい」と、会員に提言した。
冬瓜素麺は、その食感のコントラストに、全員が瞠目。冬瓜のサクサク感もさることながら、つるんっモチッとした蓮粉による歯触りに、「初めての食感!」との声が多く寄せられた。また、冬瓜は白い部分だけを使っているとあって、「残りの青い部分は?」という質問があり、松尾さんが「細切りにして湯がき、お椀の青味としている」と答える一幕も。ホワイトセロリの利かせ方が控えめで品がいいという意見もあった。

冬瓜素麺 鱧炙り ホワイトセロリ 山葵

冬瓜を素麺仕立てにした一品。夏の冬瓜はサクサクとした歯切れの良さが身上。さらに、葛粉よりもコシの強い蓮粉(蓮根からでんぷんを抽出し精製した粉)を使うことで、モチモチ、つるんとした歯触りを生んでいる。
実は、熟れた秋口の冬瓜で試作したことがあったという。「どうも食感が頼りなくて…。身の詰まった初夏の冬瓜で作ってみたら、とても歯切れがよくて。同じ食材でも、季節によって持ち味も質感も変わる。その長所を見極めて調理することの大切さを再認識しました」。松尾さんは熱をこめて語った。
千切りにした冬瓜は蓮粉をまぶし、水溶き蓮粉を加えた湯で茹でる。こうすることで、冬瓜にまぶした蓮粉が散らず、しっかりとまとわりつくのだという。急冷し、水気を切って器に盛り、一番だし・酒・淡口醤油に追いガツオしたかけだしを張る。レアに炙った鱧、ホワイトセロリのお浸し、ワサビを添えて。


大阪料理会
大阪料理会




◆6月のテーマ「鼈(すっぽん)」「鼈出汁」  辻 宏弥による献立
献立1

すっぽんと冬瓜の摺り流し仕立て

日に日に暑さが増し、夏を越す備えを、と考えるこの時期。滋養のあるすっぽんを、大阪では好んで食してきた。店では冬はフグ、夏はすっぽんを主に料っている辻さんが、専門店主として今回提案するのは、豊かなだしの味わいを生かした“節約料理”。「当店では、1匹1s程度で600〜700gのだしをとります。高価なだしなので、たっぷり使うと高級料理になってしまう。そこで少量を効果的に用いて、端身なども生かした大阪的な一品を考えてみました」。
「冬は大根や蕪、秋はエノキ茸などを使いますが、初夏なので冬瓜で作ってみました」という摺り流し。すっぽんだしと昆布だしを合わせ、淡口醤油で加減して冬瓜を炊き、白い部分だけを煮汁とミキサーにかける。生椎茸は砂糖水に漬けて水分を抜いてから冷凍し、冬瓜と同様に炊き、驚くほど柔らかな食感に。その椎茸に、すっぽんの端身をほぐし、すり身と合わせた真丈地をつけて椀種とする。さらに、『浅草』の人気の一品、すっぽんのみたらし団子に使う白玉を焼いて添え、白髪ネギに振り柚子で。

献立2

【総評】

摺り流しは「すっぽんの姿が見えないのに、すっぽんの味がするのが面白い」と好評。あえて淡味に仕上げたことで、白玉の焼き目の香ばしさや、椎茸の柔らかさが際立っているという意見が多かった。「椀物に椎茸を使う場合は、焼くなどして食感を立たせることが多い中、この柔らかさは新鮮」という声も。
一方、玉蒸しは、飯蒸しの食感に質問が寄せられ、「油で炒めて蒸し上げた」との答えに、賛否両論。雑炊がテーマということで、一粒ずつほどける感じが面白いという意見と、油の風味がすっぽんの印象を少し弱めているとの意見が聞かれた。飯蒸しやおこわの最適な水加減についてのコメントが会員から次々と発表され、有意義なやりとりがなされた。
畑会長は、「すっぽんの醍醐味は、だしにある。臭みもなく、きれいなだしで、専門店の底力を感じた。摺り流しは、すっきりした仕立てで実に上品。対して、飯蒸しは、こってりしていて濃厚。その二つの提案も面白かった。卵、餅(白玉)、ネギとの相性のよさを改めて知る二品であった」と締めくくった。

すっぽん玉蒸し

「鍋の後の雑炊の美味しさを一品料理で表現できないか?」と挑んだ意欲作。茶碗蒸しの中に飯蒸しを潜ませ、ネギの旨みをたっぷり加えたすっぽんだしの餡をかけている。摺り流しが淡味であったのに対して、こちらは濃厚な味わいだ。
もち米を太白胡麻油で炒め、昆布だしとすっぽんだしを注ぎ入れ、すっぽんの端身も加えて飯蒸しに。これを器に入れ、茶碗蒸しの地を流して蒸し上げる。「あんのすっぽんだしを主張させたいので」、茶碗蒸しには昆布だしを合わせて淡口醤油・塩で塩梅。仕上げに、すっぽんだしで白ネギの青い部分を煮て漉し、葛を引いたあんをかけている。


大阪料理会
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撮影/藤澤 了  文/中本由美子