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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第119回〉
2021年 7月

会場にスライドを設置し、料理の手順を動画で写しながらの発表という初の取り組みに、大いに沸いた今回の大阪料理会。Zoomでの参加者も増え、同録したものは後日、会員限定で配信もされた。テーマは、料理に仕立てるのはなかなか難しいとされるキウイやスイカなどの「果実」と、大阪府がブランド化に取り組む「魚庭(なにわ)アコウ」。運営委員も務めるベテラン会員2人の料理発表とあって、フルーツの糠漬けやアコウの脂を使ったネギ油の作り方から、盛り付けのコツ、提供の仕方まで、若手からの多くの質問がなされた。



長内敬之 長内敬之さん

旬鮮和楽さな井

お店HP
ぐるなび
坂本 晋 坂本 晋さん

割烹 味菜

お店HP
ぐるなび



◆7月のテーマ「果実前菜」  長内敬之による献立
献立1

前菜
剣先烏賊ゴールデンキウイ挟み
鮎博多 揚げプラムソース
西瓜すり流し
葡萄 ブルーベリー 帆立の黄身酢和え
甜瓜(マクワメロン) 苦瓜 枝豆ずんだ 洋風最中

「盛夏の頃に爽やかで清涼感のあるフルーツは好まれますが、甘みが強いので扱いが難しい。あえてそこに挑戦し、若いお客様も興味を持ってくれる前菜を考えました」と長内さん。剣先イカは細かく庖丁を入れ、一晩昆布〆。ゴールデンキウイを白醤油・米酢・太白胡麻油で味付けしてアガーで固め、棒状に切ってイカに挟んでいる。「鮎博多」は、鮎のワタを蒸して一晩冷やし、脂を分離させて取り除き、温泉卵の卵黄に合わせたタレが肝。これを接着剤として身を重ね、中火で蒸してあられ揚げに。120℃のオーブンで1時間焼いたプラムのソースと蓼酢味噌で。「西瓜のすり流し」は、糠漬けにした風味が独特。「黄身酢和え」は冷凍卵の卵黄に砂糖・アンチョビ・酢・淡口醤油を合わせ加熱しながら煉り、62℃で30分湯煎にかけた帆立、マスカット、ブルーベリーと和えたもの。「洋風最中」にはマカロン生地を使用。中には、130℃で油通しし、八方だしに漬けた苦瓜、刻んだ甜瓜を枝豆衣で和えたものが入っている。


献立2

【総評】

フルーツの甘みではなく酸味を生かす、という長内さんの前菜に、会員は興味津々。西瓜の糠漬けをすり流しに、というチャレンジには多くの質問と感想が寄せられた。「西瓜はどのように糠漬けに?」という質問には「あっさりめのフルーツ専用の糠床を作って密閉袋で個別に漬けてます」と長内さん。鮎とプラムの相性にも発見があった、との声も。畑会長からは、取り組みは素晴らしいとしながらも「キウイと合わせたイカは糸造りの方がより相性がよかったのでは? マカロンにはもう少し和の香りを立たせても良かった」との助言があった。「渡り蟹重ね」は、可憐な盛付けが好評。「焼いたセロリアックの風味がアクセントになっている」と、素材選びのバランスの良さを称える意見も多かった。長内さんの「若い子にはパフェ仕立てに。日本酒をお飲みになる男性客ならこの料理はお出ししないかな」という発表に、「割烹ならではの柔軟な発想。見習わないと」と、多くの会員が考えさせられたと話していた。畑会長が「素材のバランス感が見事だから、全部を混ぜ合わせて食べたい。僕が行ったらセルクルで抜いて出してください」と締めて笑いを誘った。

渡り蟹重ね 冷製仕立て

大阪の秋祭りといえば渡り蟹。本来の旬は冬とされるが、成長過程にある初夏からもまた妙味だ。とはいえ、ある程度値が張ることから、「野菜をたっぷり合わせて、リーズナブルに提供したい」と考えたのがこの一品。こちらはパフェスタイルだが、会員の試食用は、セルクルで抜いてテリーヌのように仕立てた。渡り蟹は20分ほど蒸して身をほぐし、カニミソと共に土佐酢で和える。合わせる野菜は、160℃のオーブンで30分焼いたセロリアック(根セロリ)、白味噌・柚子胡椒・レモン汁で和えたアボカド、八方地に漬けた糸瓜、揚げ浸しにした千両茄子。フルーツトマトは、種の部分を一晩かけて漉しトマトウォーターを取って、これをゼリーに。果肉は130℃のオーブンで2時間焼いて裏漉し、ピューレにしている。これらを層になるよう重ねて盛り(またはセルクルで抜き)、スプラウトを天盛りにしている。


大阪料理会
大阪料理会




◆7月のテーマ「魚庭(なにわ)あこう」  坂本 晋による献立
献立1

アコウ香梅蒸し

大阪湾が魚庭(なにわ)の海と呼ばれていることから、ここで水揚げされたキジハタ(アコウ)を近年、大阪府がブランド化。坂本さんは、「大阪湾で獲れる1s超えの魚庭アコウは脂がしっかりのっていて、持ち味が深い」と、テーマ食材に選んだと言う。まずは、アラに塩をして霜降りし、昆布と共にスープをとる。切り身は、味噌ダレを塗り、刻んだワサビの茎を重ねて、色止めのサラダ油を塗った露地ものの大葉で包んで、蒸している。味噌ダレは、田舎味噌を朴葉の上で香りよく焼き、すり鉢で梅肉、アコウのスープと擂り合わせたもの。仕上げにかけたあんは、アコウのスープを塩と少しの酒で塩梅し、葛を引いている。だしとすり胡麻、酢橘で軽く味を漬けた針茗荷、薄味に炊いた南瓜を添えて。

献立2

【総評】

「アコウスープのあんが旨い!」と試食中、各テーブルから声が上がったのは、「香梅蒸し」。大葉の風味の鮮烈さ、そこに忍ばせた焼き味噌のアクセントにも、賛辞が寄せられた。畑会長も「今は日本料理界で派手な料理が増えているが、こうした地に足の着いた料理はやはり心に響く。針茗荷煮に施された仕事も丁寧で、細やかなところまで計算されている」と絶賛。仕込んでおけば一気に仕上げることができ、大人数の宴会にも適している、という面でも関心の高い発表となった。続く「錦紙焼き」は、内臓の脂も使うという発想と技に質問が集中。坂本さんは料理の全工程をきっちり動画に撮って、これを映写しながら事細かく解説し、「内臓の脂だけを真空にして冷凍し、貯めておくとよい」といった仕込みの裏技も話してくれた。畑会長は「パプリカのソースが絶品。持ち味のよさを最大限に引き出している。着物ソースとのバランスも良く、ネギ脂の風味や食感も利いている。感激しました!」と締めくくった。

アコウ錦紙巻き

味の決め手となるは、変わりネギ油。なんと、坂本さんは、魚庭アコウの内臓の脂に難波葱(なんばねぎ)を合わせて作っているという。「1s超えの魚庭アコウは内臓がしっかりしているので、これをちょっと生かしてみようかと」。内臓の脂に水少々を加え、弱火で水分を飛ばすようにフライパンでじっくり加熱すると、アコウ脂ができる。ここに笹切りの難波葱を入れて薄塩をしたもの。身は薄くそぎ切りにして昆布で軽く押しておく。錦糸玉子でこの身とネギ脂を巻き、弱火で焼き上げる。ソースには肝を使う。酒蒸しして裏漉し、「香梅蒸し」のスープに、煮切った梅酒、淡口醤油で味を調える。鮮やかなオレンジは、焼きパプリカのソース。裏漉しし、こちらにも先のスープを加えて、塩で塩梅し、煮凝らせている。さらに、皮を揚げたもの、焼いたものの両方を添え、魚庭アコウを余すところなく盛り込んだ。


大阪料理会
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撮影/藤澤 了  文/中本由美子